「月百姿」シリーズについて

 

「月百姿」は芳年晩年の傑作で、明治18年~25年(1885年~1892年)に版行された大判100図の連作シリーズです。

歴史的人物や古典文学、美人や役者、多様なテーマを描写した中に月の穏やかな光を照らして、感動に満ちたシーンを描いた芳年の繊細な画風には、特にそれまでの浮世絵に見られなかった、顔の表情の見事な描き方が見どころの一つです。

明治期に入ってから派手な染料が多く使われた錦絵とは対照的に、「月百姿」のほとんどの作品に落ち着いた色合いが見られるのも特徴です。また、雲母をふんだんに使い、紙の凹凸で紋様が現れる空摺もよく施されるなど、気品の高い作品が多く、芳年の死の翌年に目録と序文を添えて版行された画帖が巨匠の画家人生の集大成と言えます。

 

「卒塔婆の月」 (小野小町)
「卒塔婆の月」 (小野小町)